カープを好きすぎるカープファンを生で見て感動した話。
その疑問を初めて抱いたのは、高校生の時だった。
当時所属していたバレー部の顧問がカープファンで、カープが勝った翌日は機嫌がよく、負ければしごかれるという理不尽な経験をしたのがきっかけだった。
成人して、広島出身の漫画家さんのアシスタントになったときも、ラジオのチャンネルはつねに野球中継、カープが負けた日は何か気まずい空気が漂っていたものだ。
それから約10年ほど経ち、すっかり忘れてしまっていたその疑問が、尾道に移住した友人を訪ねた際に、再び意識下からよみがえることになった。
日曜日の朝早く、尾道から広島行きの電車に乗った時のこと。
停まる駅停まる駅で、赤いユニフォームを着た老若男女が次々と車両に乗り込んでくる。
オタク業界で言うところの「痛バッグ」「痛Tシャツ」を自作している人もいれば、おそらく前回優勝時(25年くらい前)から着続けていると思われる黄ばんだ旧ユニフォームに身を包んだ人もいる。
んで、みんな一様に、遠足に出かける子供みたいな顔で、嬉しそうにそわそわしている。
この日は午後からマツダスタジアムでカープ対DeNAのデーゲームが行われるのだと知った。
私は呉線に乗り換えてゆっくりと海を眺めた後に広島空港へ直行するつもりだったが、予定を変更してそのまま広島駅に向かった。
午前9時頃に広島駅到着。
試合開始までかなり時間があるにも関わらず、おそらく自由席の席取りのため、マツダスタジアムの方角へ歩いている人がたくさんいる。
その聖地巡礼のごとき列に、気がつくと自分も加わっていた。
この先に一体何があるというのか。
人々は何を求めているのか。
わからないまま、当日ビジター席を一枚買い求めた。
(カープ席はそうそうに売り切れていた)
試合開始を待つ間、平和公園を散歩した。
原爆死没者慰霊碑に黙祷を捧げる。
カープの歴史をググってみると、原爆からの復興を背景にチームが結成されたらしい。
チーム名のカープは、原爆で焼失した広島城(通称・鯉城)に由来するともいう。
経営難に陥り球団経営者が運営を放棄しそうになったときも、市民は一丸となって募金活動を行った。
想像以上に歴史が濃い。
その後駅ビルでご飯を食べた。
こじゃれたファッションモールの店先には、この春のトレンドアイテムに彩られたマネキンがいて、そのマネキンが、服の上からカープのユニフォームを着ている。
なんのためのマネキンか。
カープと靴下屋のコラボ靴下がショーケースに展示されていた。
赤い生地にカープのロゴを入れただけのシンプルな靴下は、靴下屋:カープ=1:9くらいカープ色が強すぎた。
コラボする意味はあったのか。
一応お土産に買おうかなくらいの気持ちで店に入ったが、それらしき靴下がない。
即完売とのことだった。
入り口に「黒田選手、帰ってきてくれてありがとう!」という貼り紙をした店をいくつも見かけた。
球場近くのローソンは、企業カラーである青を無視して、赤くデコられている。
街中がカープ(球団・選手)を応援しているし、カープも地元・ファンを大切にしている。
相思相愛の強い絆がそこにはあるように思えた。
それは理屈ではなく、体感してこそ価値のあるもの。
なぜカープを応援するのか、これ以上理由を分析するのは野暮というものだった。
試合開始後、ビジター席でしばらく観戦したのち、センター側までぐるりと歩いてみる。
ゆったりとした通常席の他、のんびり寝そべって見ることができる「寝ソベリア」、BBQができる「びっくりテラス」、スポーツバーなどユニークな席がたくさん用意されている。
また、「ふわふわカープ坊や」などの遊具は子供達に大人気、ベビーカー置き場や授乳室も完備されており、子供連れでも安心して楽しめそうだ。
満員のスタジアムは、端的に言って気持ちがよかった。
活気があって、おだやかで、安心と自由に溢れていた。
選手の名前も顔も知らない私は、少しの疎外感とともにその熱をじんわり感じながら、幸せの横顔を覗いた気分になる。
祭の花火は、近くから見ても遠くから見ても、どこから見ても人を幸せにする。
球場を上空から見ることができたら、丸いキレイな赤い花火に見えることだろう。
帰宅後、野村宗弘さんの『赤ファンのつぶやき』を読了。
マニアックすぎて意味がわからないのに面白い。
24年間優勝を待ち焦がれる姿は、一途すぎて純粋すぎて、カープというよりカープファンを応援したくなった。
カープを好きすぎるカープファンに憧れさえ抱く。
そのままカープの戦績が気になって、『プロ野球速報』というアプリを落とすことに。
今年は、阪神の監督に金本、巨人の監督に高橋由伸が就任した。にわかファンでも楽しめそうな気配のセ・リーグ。
なんだかんだ言って距離を置いてみたところで、カープ優勝しないかな~と期待しはじめているし、優勝したらうっかり号泣してしまいそうな自分がいる。
- 作者: 野村宗弘
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